私の本棚 「Born Digital」
私が読んだ洋書をご紹介
Born Digital: Understanding the First Generation of Digital Natives
John Palfrey, Urs Gasser著 (ハードカバー)
●内容紹介
1980年以降に生まれた世界中のデジタル・ネイティブと呼ばれる世代と、その親や教師にインタビューを行い、この新しい世代とデジタル技術の関わりや、彼らの行動様式、デジタル技術に対する考え、利用法、さまざまな危険や問題点を洗い出し、考察と論評を行っています。批判だけでなく、新技術によって生まれつつある新しい文化やビジネスの高い将来性を紹介しています。
著者は「この本の目的は、現状の良い点と悪い点を提示して、この世界中がつながっている世界への急速な移行を頭から否定するのではなく、うまく生かしていくためのヒントを親、教師、企業経営者、法律策定者に示唆することである。この本の中心にあるもっとも難しい問題は、危険を警告することと、よいものとして奨励することのバランスをどのようにとるかということだ」。「今、私たちは分岐点にいる。目の前に二つの可能性があって、一方はインターネットや若い世代が利用するものの優れた点を破壊してしまう可能性、もう一方は、賢い選択をしてデジタル時代の明るい未来に向かえる可能性だ」と述べ、いくつかのトピック(アイデンティティ、個人情報、プライバシー、情報の質と信頼性、情報の氾濫、新しい技術革新など)を柱として、若い世代がこの新技術を利用することで生じている功罪を具体例をあげて論じています。
著者たちの考えの根底にあるのは、これだけ将来性のある技術をよい方向に発展させたい。そのために、この技術と表裏一体に存在する弊害を取り除く方策を考え、危険から若い世代を守りたい、そしてデジタル・ネイティブ世代の無限の可能性を花開かせたいという強い希望です。
デジタル・ネイティブの親の世代は自分たちが育つころになかったものを子供の世代が急速に利用するようになったため知識がなく、子供の世代は年齢的に常識や危険を察知する知識がないために、思いがけない問題が生じていることが指摘されています。
また、この技術の威力があまりにも大きいために、インターネットや携帯電話の普及率の高い国と低い国の経済的な発展の格差が重大な問題となることも指摘しています。
一方で、デジタル技術によってクリエイティブな活動のコストが下がり、考えられないほどの視聴者を得ることが可能になったこと、コンピューターの利用が普及して、価格も低下したために、アイデア一つでビジネスを成功させる起業の可能性が高まったことから、デジタル・ネイティブ世代が成長するにつれ、この傾向はさらに拡大して、豊かな未来に向かえると大きな期待を寄せています。
著者は「まず、どういう問題が生じているかを細かに分析すること」を重視し、この本は「1.0」であるとして、現実に生じている問題を示した上で、現在の対応、今後望まれる対応を考察しています。
今の段階では、こういった問題の具体的な解決策がすべて見つかっているわけではないが、政府や行政機関が介入し、規制するには限界があり、デジタル・ネイティブ自身が新しい技術を利用して問題を修正する道を見つけていくのではないか、という考えが示されています。
最後の章は2人の著者がメールによる対話の形式で意見を交換し、「デジタル・ネイティブという言葉は一つの比喩であり、サイバースペースという拡大するグローバルネットワークの将来性と限界、チャンスと障害、恩恵と悪影響について読者が考え、討論するきっかけになってほしい」と結んでいます。
●感想
デジタル・ネイティブについてはNHKで特集番組が放送され、その書籍版が刊行されているため私も知っていて、関心を持っていました。
この本のよいところは、「内容」で引用したように、著者たちがデジタル技術の将来性を認めたうえで、危険な面も公平に考察している点です。これほど大きな威力を持つ技術であるだけに、このような姿勢は大変重要だと思うのですが、ソーシャルメディアやデジタル技術関連の本は、期待があまりにも大きいせいか、どちらかというとバラ色の未来という論調で、現在問題となっていて、まだ解決されていない危険性や問題点への踏み込みが足りないのではないかと思います。
デジタル・ネイティブ世代は旧世代よりも新しい技術を積極的に利用していて、本書の主眼がこれらの世代の行動分析や彼らを守ることに置かれているのは確かですが、プライバシーや個人情報にまつわる問題などは利用するすべての世代に生じています。
本書ではさまざまな問題点について項目別に実例を挙げています。整理されていて分かりやすいと思いました。
著者たちは法律の専門家なのですが、前に述べたように、「法的な規制」には限界があって、いろいろな問題はあるにしても、適切な教育や知識の普及、経験によって、デジタル技術の利用の問題点は改善されていくであろう、というスタンスです。
また、問題点だけでなく、こうした技術によって生まれつつある新しい文化やビジネス、彼らの独創性についても高い将来性を持つものとして詳しく紹介されています。デジタル・ネイティブ世代は、新しいスキルを持つ新しい労働力となると非常に期待しています。
本書はいろいろなケースを示すことで、現実に問題が生じていることをはっきりと提示し、それを解決することの重要性を説いています。
この本の「Quality」という章で、著者も十代のデジタル・ネイティブに「情報の質」について質問したところ、彼らはそういったことをほとんど気にとめていなかったという記述があります。デジタル・ネイティブ世代が「インターネット」に書かれていることを何の抵抗もなく鵜呑みにして、情報が正確かどうかなど考えようとしない、と指摘しています。
具体的な解決策が示されているものばかりではありませんが、たとえば、子供を危険から守る、危険を教えるという点について、親や教師が若い世代の行動を見守って教育する、そのために親の世代もこういった技術を実際に利用して、理解を深める、情報を取捨選択する、これまでにも状況やメディアは違っても同じような問題は存在していたので、その知識を生かす、むやみに禁止しないといった提案をしています。
こうした技術を利用した新しいビジネスを行っている企業の中には、プライバシー保護といった問題に対応し始めているところもあると指摘しています。
デジタル技術がさらに普及することや、それを利用した新しいビジネスを生み出そうという潮流は、もう止められないものだと思いますが、それならばなおさら、今こうした危険性と可能性をはっきり明示する本書は価値があると考えます。
声高にある主張をするのではなく、冷静に今の状態を見極めようとしています。一般の読者を想定していて、論文調ではなく、読みやすい文章です。落ち着いたわかりやすい文章で書かれていますが、子供たちの世代をよりよいものにしたい、人間は良い方に進めるはずだという著者たちの肯定的な信念が感じらます。








